第60章 危篤

「南坂海乃。駆け引きにも限度ってものがあるだろ。俺はここまで譲ってきたんだぞ。いつまで拗ねてるつもりだ」

「……まさか本当に楓花のこと、放っておくのか? お前が十月十日お腹を痛めて産んだ娘だろ!」

ほら、尻尾を出した。

この男、演技だって長くはもたない。

「ピリリリリ——」

南坂海乃が口を開きかけた、そのとき。

せわしないスマホの着信音が車内に響いた。

黒谷優は眉をひそめ、カーナビ画面に踊る「佐藤詩乃」の文字を見た瞬間、顔色を沈める。

手を伸ばして、切ろうとした。

「出れば?」

南坂海乃の瞳に宿るのは、冷え切った嘲笑だけ。

「あなたの本命さまが急用なんじゃない。遅れたら...

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